はじめに
こんにちは、松山で NCプログラム・CAM・治具設計をしている Manufacturing Foundations の樋口 豊です。
5軸加工の話になると、こんな声をよく聞きます。
- 「5軸って高いよね」
- 「ほんとに費用対効果出るの?」
- 「買っても使いこなせない」
- 「うまい使い方が思い浮かばない」
- 「干渉が怖い」
- 「CAMもポストも難しそう」
- 「プログラムを作るのに時間がかかりそう」
- 「3軸機で段取り替えすれば行けるのでは?」
どれも、もっともな悩みだと思います。そこで今回は、「同時5軸にすると本当に速くなるのか」「工具代はどうなるのか」を確かめるために、植木鉢の金型コアのような形状のモデルを使って、3軸と同時5軸を CAMとシミュレーションの上で 同じ条件に近づけて比べてみました。
最初にお断りしておくと、これはあくまで シミュレーション上の比較 です。実機で加工して確かめた結果ではありません。「こう組むと、こういう数字になった」という一つの例として読んでいただければ嬉しいです。
検証条件
モデルと想定機械
- モデル:植木鉢(フラワーポット)形状の、金型コアのようなモデル
- 想定機械:オークマ MU-500VA-L(公開カタログの仕様のみを参考にしています)
- CAM:SprutCAM X
- 検証:CIMCO によるシミュレーション
段取りは3軸・5軸で同じ
ワークの固定は、どちらも同じ段取りです。ナベヤさんのバイスキットを使っています。
- LT5AU100CF(5軸用セルフセンタリングバイス)
- LT5AU100-SJC(超硬グリップのステップジョー)
- BCS18J(クランプ)
段取りをそろえることで、「加工方法の違い」だけを比べやすくしています。
加工時間の比較
結果は次のとおりです。
| 3軸 | 同時5軸 | |
|---|---|---|
| 加工時間 | 5:03:24 | 3:44:18 |
同時5軸のほうが 約26%短く なりました。
差はどこから出たのか
荒加工は、3軸と5軸で同じ工具・同じ工程にしています。つまり、差が出たのは中仕上げと仕上げの部分です。
どちらの側でも、広いピッチで削れるようにバレル形状の工具を使っています。そのうえで、差の大部分は ø0.6のボールエンドミルによる仕上げ から生まれました。
同時5軸では工具を傾けられるので、突き出しを短くしたまま加工できます。すると、工具が本来持っている性能に近い条件で削りやすくなります。3軸では、突き出しを少しでも抑えるために、リーチの長い焼きばめホルダを使いました。それでもゲージラインからの長さは長くなり、そこに小径のロングネックボールを組み合わせているため、条件は控えめにせざるを得ませんでした。
なお、中仕上げだけを見ると、5軸のほうがわずかに長くなっています。全体では短くなっても、すべての工程で速くなるわけではない、という点も正直にお伝えしておきます。
工具費の比較
初期の工具費は、同時5軸が3軸の 約74% でした(金額ではなく割合のみ掲載します)。
使った工具の本数は、3軸が7本、5軸が6本です。
工具を傾けられると、短い工具で届く範囲が広がります。3軸では、深い部分や奥まった部分に届かせるために、長い工具や特殊な工具が必要になりました。
もう一つ、5軸ならではの良さがあります。1本の工具で広い範囲をカバーできるので、工具の違いによる段差(つなぎ目のずれ)や摩耗の状態を管理しやすくなります。
動画では触れられなかったこと:段取り替え・3+2軸とつなぎ目
「3軸機で段取り替えすれば行けるのでは?」という声は、もっともだと思います。実際に、工具長の取り方やセットアップの工夫で、段取りの境目につなぎ目が出にくいように仕上げている工場さんもたくさんあります。そうした現場の工夫と経験は、本当にすごいものです。
ただ、段取り替えでも3+2軸(割り出し加工)でも、面ごとに削っているのは結局3軸加工です。面と面の境目には、段取りの再現性や機械の精度に起因するつなぎ目が出る可能性が、どうしても残ります。
同時5軸であれば、ワンチャッキングのまま工具の姿勢を連続的に変えて、1つのパスで面をつなげて削れます。つなぎ目を「出にくくする工夫」ではなく、「そもそも境目を作らない」という前提から考えられるのが、同時5軸を選ぶ理由の一つだと考えています。
費用対効果とまとめ
今回の例では、加工時間も初期工具費も、同時5軸のほうが およそ4分の1ほど少なく なりました。
ただし、3軸が悪いわけではありません。3軸でも十分きれいに、安定して仕上がる形状はたくさんあります。部品の形や目的に合わせて選ぶのがいちばんだと思っています。
今回のハイライトは、バレル工具を使った同時5軸の仕上げ です。広いピッチで削れるバレル工具と、傾けられる5軸の相性の良さは、シミュレーションでもはっきり見えました。
これは私の一つの答えです。皆さんならどう組みますか? ぜひ、ご意見や別のやり方も教えてください。
動画
加工の様子(シミュレーション)と工程ごとの数字は、動画で順に紹介しています(9分53秒)。
動画のリンク:https://youtu.be/EQAeOqePJKQ
おわりに・お問い合わせ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私は、NCプログラム作成、SprutCAM X のポスト・キネマティクス調整、治具設計、CIMCO での検証といった、CAM・工程まわりのノウハウをお手伝いしています。「この形状はどう組むのがよいか」「ポストを整えたい」「検証を入れたい」といったご相談があれば、お気軽にどうぞ。
お問い合わせは、当サイトのメールからお願いします。詳しい内容をお聞きする前に、秘密保持契約(NDA)を結びますので、図面やデータをお送りいただく前にご相談ください。
※ 本記事はCAM・工程面のノウハウのご紹介であり、5軸加工そのものの受託をお約束するものではありません。
クレジット・商標について
- 工具モデル:タンガロイ、イスカル・ジャパン(ISCAR)
- 治具モデル:ナベヤ
- SprutCAM X、CIMCO、オークマ、ナベヤ、タンガロイ、ISCAR などの名称は、それぞれの会社の商標または登録商標です。
- 本記事は各社とは無関係の個人事業者によるもので、数値はシミュレーション上の結果です。